赤谷川本谷
赤谷川は群馬県みなかみ町にある。利根川の支流だ。その流れの源は谷川連峰にあり、生物多様性保全、自然保護でも有名な赤谷の森の最深部にある。流れはみなかみ町が沼田市を目の前にするあたりで利根川に合流する。
沢登り特選ガイド2『奥利根・谷川連峰の沢』(白山書房)の岸智礼氏に言わせれば、「谷川連峰に名渓有り。この連峰の南面を流れる沢は多く、また素晴らしい沢ばかりであるが、この赤谷川本谷ほど名渓と呼ぶにふさわしい沢はないと思う。」とある。
グレードは4級上、標準日数は1泊2日、遡行適期は7月上旬から10月中旬だ。7月はまだ雪が谷を覆っているかもしれない。
パートナーと前々から狙っていた谷ではあったのだけど、急遽2週間くらい前にお互いの休みが取れ、挑戦してみようということなった。
確かに「名渓」にふさわしい渓谷だと思う。美しさも、難しさも一流の谷だった。
ふつうの沢登りにはない滝の数々、そのレベルの高さ、激しい雷雨、酷い藪こぎ、ヒルとの格闘・・・。もちろん、僕のレベルがまだまだということもあるけれど、技術力、体力、精神力、判断力、パートナーとの連携力、、短くはない僕の山人生のなかで、そのすべてが求められた一番厳しい山行になった。
僕らは、2018年8月13日(月)から15日(水)までの2泊3日、Tさんと2人で挑んだ。
<コースタイム>
◆1日目
川古温泉(16:00)===金山沢出合(17:30)
◆2日目
金山沢出合(05:00)===入渓地点(06:00)===裏越ノセン(09:30)===ドウドウセン(13:45)===ドウドウセン上の幕営地点(18:30)
◆3日目
ドウドウセン上の幕営地点(05:00)===オジカ沢ノ頭手前の稜線(09:00)===万太郎山(11:50)===毛渡乗越(13:15)===入渓地点(14:55)===川古温泉(17:30)
<留意事項>
※コースタイムには、途中、昼食などの休憩も挟んでいます。
※あくまで個人の記録、所感であるため参考程度にご覧ください。
2018年8月13日(月)川古温泉から金山沢出合
2泊3日といっても、1日目はほとんど東京からの移動に費やした。赤谷川本谷の起点となる川古温泉に着いたときは、もう日暮れも間近に迫っていた。

1日目。川古温泉の駐車場に車を停めて準備。駐車場は無料だけど、本当は停めちゃいけないのかもしれない。

林動歩き。このあたりはまだ車も通れる広さ。ただ、川古温泉にゲートがあって一般車両は入れない。

今は想像もつかないけれど、かつては車も通れたみたい。

この看板が林道終点の目印。川古温泉からここまでだいたい1時間30分かかる。2時間はみておきたい。

この日は、金山沢出合い付近の一段高くなった場所で幕営することにした。笹穴沢以来の懐かしの場所。

釣りもしてみたけど、釣り師がはいっていてまったく釣れず・・・。天気が不安定ということもあり薪も濡れていて焚き火をつけるのにも苦労した。

2018年8月14日(火)核心のドウドウセンを超える
2日目。今日はこの山行の核心だ。数々の滝を超えていく。

朝3時に起きて5時に出発。12時間行動なので気合を入れる。


一応まだ登山道だけれど、意外に悪い。あまり人は通らないみたいだ。湿っていると滑りやすいので滑落注意。

朝6時。入渓地点に到着。登山道が沢とぶつかる場所が入渓地点。ここから沢を遡る。小休止&装備をつけていざ入渓。釣り道具など不要な道具は近くの岩の裏にこっそり隠す。

朝6時30分。沢登り開始。

すぐに左手(右岸)にエビス大黒沢と出合う。いつか登ってみたい沢だけど、命がいくつあっても足りない。

まだまだ川幅は広いけど、左右は急峻な山々に囲まれていることがよくわかる。増水したら逃げ場は少ない。


6時45分。最初の難関、見えてきたマワット下ノセン20m。

「セン」とは「滝」の意味だ。左の壁(右岸)を登っていく。高い。

滑る。意外に悪かった。

7時25分。マワット下ノセンを越えるとすぐにマワットノセン15m。右の壁(左岸)を登る。

完全に水につかるわけで、すでにビショビショ。


8時。マワットノセンを超えると「巨岩帯」と呼ばれるエリアに入る。

できる限り歩きやすいところをルートファインディングしながら進むけど巨岩ばかりで疲れる。


まだまだ続く巨岩帯。ほんとに巨岩だらけ。かなりきつかった・・・。

9時15分。ようやく巨岩帯を超える。裏越ノセンが見えてくる。

9時30分。裏越ノセン6段70mに到着。赤谷川本谷の一つ目のハイライトと言っても過言ではない滝だ。とにかくでっかい。

左岸に取り付き、草付きのバンドを登っていく。


一段下がってトラバース。恐怖感も抜群。

トラバースが終わったら左岸から右岸へ水の流れを飛び越える。大迫力。

トラバース地点を右岸からみた写真。カムが抜けてザイルが弛む。これで落ちたらとんでもないことになる・・・。




最後、滝の出口で行き詰まり引き返す。


11時45分。この滝だけで2時間以上消費してしまった。

空を見上げると一羽のイヌワシが優雅に舞っていた。

12時13分。4m滝。右側(左岸)を登る。登り終えて大休止。

12時57分。とうとうドウドウセンへの入り口だ。奥に前衛滝7mが見える。まだここでは青空なのに、この後、悲惨なことになる。

13時7分。ドウドウセン前衛滝7m。泳いで左岸に取り付く。

滝上にあがる部分がかなり悪くてこずる

前衛滝を超えるとドウドウセンが姿を現す。13時47分。ここで天気が急速に悪化。雷雨。八方塞でやばい状況になる。
14時。このままだと増水してかなり危険なのでとりあえず取り付く。右側(左岸)の岩壁を左上していく。写真の中央あたりのテラスを目指す。テラス手前部分がかなり悪い。足を岩から投げ出し、手の力でトラバースするしかない。

14時40分。テラス。雨がどんどん酷くなってくる。

水量の増加がものすごく、もはや恐怖でしかなくなる。

14時50分。ここからは人工登攀。つるつるの岩壁を登っていく。とにかく水かさが増してきて死ぬ思い。無我夢中で攀じ登る。


この壁を攀じ登る。途中で雷雨は止む。よかった・・・。とにかくきつかった。

本当ならこのF滝の落ち口に降りて右岸にトラバースするのがルートのようなんだけど、降り口がわからず。この時点ですでに17時過ぎる。

なんとかドウドウセンを超えたかったのだけど、ビバークが頭をよぎる。降り口がわからないので、とりあえず左岸のブッシュ帯を無理やり進んでいく。

もう死にたくなるブッシュの嵐。17時40分。暗くなりはじめる。

18時12分。ドウドウセンの上の河原が見えてきた。奇跡としか思えなかった。


今日はこの河原で幕営。18時30分、2日目の行動終了。ほんとにきつかった。生きているのが奇跡に思えた。

2018年8月15日(水)父の形見のナイフを失くした最終日も試練だった
3日目。なんとしても今日中に下山したかったわけで、3時起き。

なんと、この河原の幕営地に亡き父からの形見のナイフ(オピネル)を忘れてしまった・・・。もしも、もしも、誰か見つけたら教えてください。どうかどうかお願いします。下山後に気づき、涙が止まらなかった。

5時20分。程なくして6m滝が見えてくる。右岸から超えるが、これも意外に悪かった。朝からキツイ。



ときどきこんなゴルジュ帯も出てくるけれどさほど難しくなく抜けられる。


ここを詰めればオジカ沢ノ頭だ。

登山道に近そうなところで沢沿いをそれて最後は笹薮こぎ。

9時。無事に稜線に抜けました。ここで大休止。嬉しかった・・・。

10時。ここから一般登山道を万太郎山を越えて毛渡乗越をくだり下山する。危険な箇所はないけれど、まだまだ道のりは長い。

美しい稜線ではあるものの、疲労し過ぎた身体にはかなりしんどい。

遡ってきた最源流部を眺める。感慨深い。


上からはその厳しさはわからない。


ここからの下りがもうほんとに辛かった。すでに足の力が入らないくらい疲労している上に、刈られたばかりの笹が登山道を覆っていて滑る滑る。もう泣きそうになりながら下る。

昨日歩いた巨岩帯は上から見てもすごかった。

赤谷川本谷。圧巻だった。

まだ新しいクマの糞を発見。クマさんの寝床みたいだ。

14時55分。入渓地点に戻ってきた。大休止。この後、天気が急変。15分もしないうちに雷雨になる。

ついさっきまで透き通っていた沢の水が濁流に。もう少し遅かったら入渓地点での渡渉は不可能になっていた。
頭上で雷が鳴り響く猛烈苛烈な雷雨。ビショビショになりながら、そして猛烈苛烈なヒルの襲撃にあいながら、赤谷林道を無心で歩き、川古温泉に無事に下山できたのは17時30分頃だった。
GPSの記録
YAMAPで記録していたGPSの切り抜き画像です。

記録動画
この記録を動画にしたものです。
【おわり】